テーブル煎茶とは、明治期に西洋の椅子文化を迎え入れたことで生まれた、立礼式点前の様式である。テーブルと椅子を舞台とするこの様式は、すっかり家具文化が定着した現代の日本人の暮らしにも受け入れられる。
施主である亭主は、日本茶の産地静岡県での暮らしを通して感じた「日本茶が日々の暮らしを豊かにする」という感覚を取り戻すべく、東京・吉祥寺の地にテーブル煎茶を嗜むための小さな茶室をつくった。目指したのは、肩肘張らない「開かれた茶室」であり、日本茶と日々の暮らしを再び接続することだった。
FL+0を舞台とする従来の座位の茶室を原型に、床の間やカウンター、展示棚をFL+900の高さまで引き上げることで、FL+900を舞台とする立位のための茶室を設計した。テーブルやスツールの寸法は微細に調整され、点前の舞台としても、茶器や茶葉のショーケースとしても機能する。躙口を最大化し、4連のガラス引き戸にすることで、表通りに対して大きく開けた茶室が生まれた。
この場所には老若男女、あらゆる趣味嗜好の人が集い、日本茶という文化を嗜む。これもまた、亭主の好きが興じて生まれた、現代における数寄な茶室の在り方なのかもしれない。